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外れ馬券訴訟

先日、大阪地裁で「外れ馬券訴訟」の判決がありました。
これまでの税務実務を覆すような予想外の判決でした。

この裁判は、競馬の払戻金について無申告であった人に対する刑事事件だったのですが、所得税の計算において、「外れ馬券」の購入費用が経費として認められるかが注目されていました。

これまでの実務では、競馬の払戻金は「一時所得」として課税されることになっていました。
簡単な例を挙げます。
第1レース:5点買い(10万円×5=50万円支出)、200万円の払戻金
第2レース:5点買い(10万円×5=50万円支出)、外れ
第3レース:5点買い(20万円×5=100万円支出)、外れ
この場合の一時所得は、払戻金200万円から当たり馬券購入費用10万円を控除し、さらに特別控除額50万円を控除した140万円となります。
手元には1円も残っていないのに。。。
第2・第3レースの購入費用150万円はもちろん、第1レースの残りの4点の購入費用40万円も控除できなかったのです。

それが今回、反復継続的に大量の馬券を購入しているような場合には、競馬の払戻金は「雑所得」に該当し、「外れ馬券」の購入費用も必要経費として控除できるとの判決が出たのです。
上記の設例の場合、「外れ馬券」は第1レースから第3レースまでのすべての馬券を意味しますので、その購入費用200万円全額が必要経費として雑所得の計算上控除されることになります。
そうなると、雑所得の金額は、払戻金200万円から馬券購入費用200万円全額を控除して、0円となってしまいます。

念のため、誤解のないように改めて言いますが、現段階では競馬の払戻金の課税について、今までにない解釈の判決が出たにすぎません。
検察側が上告すれば、高裁や最高裁で判決が覆る可能性があります。
また、この判決で確定した場合でも、上記の判断がすべての競馬ファンに適用されるわけではありません。
娯楽として競馬を楽しんでおられる方の場合、今までと変わらず、払戻金は「一時所得」となることにご留意ください。

報道によると、この被告は資産運用として競馬に取り組んでおり、独自に競馬予想ソフトの改良までしていたようです。
多額の脱税をしたことに対する罪は重いですが、その情熱を何か別の方向に向ければ、きっと成功される方ではないかと思います。

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医療費控除(Ⅲ)

歯科矯正の治療費が所得税の「医療費控除」の対象となるかについて聞かれることがあります。

一般的には、子供の歯科矯正は対象となり、大人の歯科矯正は対象とならないと考えられているようです。
しかし、これは正確ではありません。

子供の場合、正常な発育のために噛み合わせを矯正することが殆どであり、医療費控除の対象となる「治療」であることに議論の余地はありません。
これに対し、大人の場合は美容のために矯正することが多いことから、医療費控除の対象となる「治療」には該当しないケースが多いだけです。

大人が歯科矯正をする場合でも、咀嚼障害による弊害を解消するため、どうしても医学的に矯正という「治療」が必要であると専門医が判断した場合には、医療費控除の対象となりうるものと思います。

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年末調整書類の保存

年末も近づき、給与所得者の年末調整の時期になっています。
毎年この時期になると同じような質問を受けることがあります。

担当者:「年末調整の書類はいつまでに税務署に出すのですか?」
原:「年末調整の書類とは『給与所得者の扶養控除等申告書』などのことですか?」
担当者:「はい、そうです。」
原:「それなら税務署に提出する必要はありません。」
担当者:「えっ?書類の左上に○○税務署宛てとなっていますよ。」
原:「確かに。でも国税庁の通達により会社で保管することになっているのです。」
担当者:「そうなんですか。」

全国の給与所得者は何千万人にも及びます。そして、毎年その人たちの多くは年末調整の書類を作成します。
おそらく、税務当局も全国の給与所得者の年末調整書類を送付されても、多すぎて管理しきれないのでしょう。
それ故、給与の支払者が年末調整の書類を保管することになっているようです。

ただ、これまでは年末調整の書類の保管期間についての定めはなかったようです。
恥ずかしながら私もよく知りませんでした。(源泉所得税について税務署が更正できる期間は保存しておけばよいのだろうと、漠然と考えておりました。)

平成24年度の税制改正により、給与の支払者は提出を受けた書類をその書類の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存することになりました。
この改正が適用されるのは、平成25年1月1日以後に提出すべき書類からとなります。
一般の会社や個人事業者の方の場合、対象となる主な書類は以下の通りです。
・給与所得者の扶養控除等申告書
・給与所得者の配偶者特別控除申告書
・給与所得者の保険料控除申告書
・給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書
・退職所得の受給に関する申告書(年末調整とは関係ありません)

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復興特別所得税

震災復興財源の確保のため、平成25年から平成49年までの25年間にわたり、「復興特別所得税」として所得税額が2.1%上乗せされることになっています。
25年というのは気の遠くなりそうな期間ですが、被災地の復興のために有意義に使ってほしいものです。

それに伴い、給与所得の方については、平成25年1月1日以降に支給日の到来する給与より、天引きされる源泉徴収税額がわずかに増えることになります。
給与計算をされる方は十分ご注意ください。
↓新しい源泉徴収税額表↓
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/gensen/zeigakuhyo2012/01.htm

それから、実務上、気を付けねばならない点がもう一つあります。
それは事業者が個人の弁護士や税理士に報酬を支払う時の源泉徴収です。
煩わしいことに、「復興特別所得税」の創設に伴い、平成25年1月1日以降に発生した報酬については、従来10%の徴収だったものは、10.21%の徴収に変更しなければならなくなりました。

ここで注意していただきたいのが、「平成25年1月1日以降に発生した報酬」という部分です。
具体例で示しましょう。
平成24年12月分を平成25年1月15日に支払う:10%で計算
平成25年1月分を平成25年1月10日に支払う:10.21%で計算
つまり、報酬については支払日で判定するのではないということです。

個人的には、そこまでする必要が本当にあるのかと思いますが、担当される方は十分ご注意くださいませ。

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生命保険料控除の改正

年末調整の季節になりました。
平成24年の年末調整では、「生命保険料控除」について大きな改正があります。
今回は生命保険料控除の改正を採り上げたいと思います。

<介護医療保険料控除の新設>
平成24年1月1日以後の契約より、「介護医療保険料控除」が新設されました。
限度額は4万円です。

<合計控除限度額の引き上げ>
「一般生命保険料控除」「個人年金保険料控除」「介護医療保険料控除」の合計控除限度額が12万円とされました。

<一般生命保険料控除と個人年金保険料控除の控除限度額>
平成23年12月31日以前の契約(旧契約)については従来通り、それぞれ控除限度額は5万円のままとなっています。
平成24年1月1日以後の契約(新契約)については、それぞれ控除限度額は4万円とされました。
旧契約と新契約の双方がある場合は、旧契約のみの控除額(限度額5万円)と旧契約と新契約の控除合計額(限度額4万円)のいずれか大きい額とされました。

とても理解しにくい改正ですが、昨年まで適用を受けていた保険契約については控除限度額が維持されていることから、「旧契約」が有利になっているということさえ覚えておけば十分でしょう。

なお、「給与所得者の保険料控除申告書」への記載が難しくなっていますが、慌てることはありません。
保険会社から郵送される「保険料控除証明書」には新・旧の区分が明記されているものが多いため、その新・旧契約区分に従って記載すればよいのです。
その際に、各欄の限度額に注意することを忘れないようにしてください。
そうすれば何とか記載することができると思います。

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社員旅行の費用

先日、お客様に連絡したところ、全員で社員旅行に行かれていました。
昨年は自粛されている会社が多かったように思いますが、今年になって再開されている会社も多いのではないでしょうか?
今回は社員旅行の費用を事業主が負担した場合の課税関係について採り上げたいと思います。

所得税法基本通達36-30では、事業主が社員旅行の費用を負担した場合、慰安のために社会通念上一般的に行われていると認められる範囲であれば「福利厚生費」として、給与課税されないと記載されています。
「社会通念上一般的に行われていると認められる範囲」という表現は、福利厚生費と給与を区分するときのキーワードのようになっていますが、抽象的過ぎる表現です。
それ故、社員旅行費用に限らず、福利厚生費と給与の区分が難しくなっているのです。

現在の実務では、以下のすべての要件を満たす社員旅行費用を「福利厚生費」とし、給与課税されないものと考えられています。
①旅行期間が4泊5日以内(機内泊を除く)
②全社員(役員含む)半数以上が参加
③会社負担額が10万円程度以下
④自己都合による不参加者に相当額の金銭を支給しないこと
⑤全社員に参加資格があり、特定の者だけを対象とする旅行ではないこと

社員旅行を予定されている方は、税務上のトラブルを避けるため、上記の要件を満たしていることを示す以下のような資料を残しておかれることをお勧めします。
・旅行日程(スケジュール)のわかる資料、見積書
・写真
・旅行後の請求明細書、会社負担額を証明できる資料


信和綜合会計事務所(大阪市中央区の税理士法人)
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税理士をお探しの方がいらっしゃいましたら、信和綜合会計事務所に是非ご紹介ください。

ゴルフ会員権の売却損(Ⅲ)

国税庁より、「ゴルフ会員権の譲渡所得に係る取得費の取扱いについて」が公表されました。
↓国税庁のサイト↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/golf/01.htm

国税庁は今年6月の東京高裁の判決を受けて、これまでの取扱いを変更したようです。
変更箇所は以前にもコラムで取り上げたことのある項目ですが、下記の②の部分が変更となっています。
↓過去の記事↓
http://www.shinwa-ac.net/cgi/blog/archives/161.html

簡単に変更の内容を時系列でまとめますと、
1.個人がゴルフ会員権を取得した。(預託金+プレー権相当額を支出)
2.そのゴルフ会員権の預託金は購入後に民事再生・会社更生手続により全額切捨てられた。
3.ゴルフ会員権を売却した。(プレー権のみの売却)
4.預託金の切捨ての前後でプレー権の内容に変更がなければ、譲渡所得の計算において、譲渡収入から「会員権取得時のプレー権相当額」を取得費として控除できる。

なお、この取扱いの変更は過去にさかのぼって適用されます。
この取扱いの変更を知った日の翌日から2月以内に所轄の税務署に更正の請求をすることにより、納め過ぎとなっている所得税が還付となります。
ただし、平成18年分以前の所得税については、法定申告期限から5年以上経過していますので、更正の請求をすることはできません。


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平成24年度税制改正

あまり報道されていませんが、平成24年税制改正法案が3月30日に成立しています。
特に影響の大きい改正は少なく、税理士業界でもあまり話題になることはありません。
なぜなら、相続税や消費税の増税は「社会保障と税の一体改革」で議論されており、この法案には含まれていないからです。
そんな小振りの改正ですが、その中でも比較的影響のある項目をいくつか列挙します。

1.給与所得控除の上限設定
所得税が課される給与所得は給与収入から「給与所得控除」を差し引いて計算されます。
この給与所得控除は給与が増加すればするほど増え続ける仕組みでしたが、245万円の上限が設けられました。
その結果、給与収入が1500万円を超える人にとっては増税となります。
この改正は平成25年分の所得税から適用されます(住民税は平成26年分から)。

2.役員等の退職金課税
退職金に対する課税は、退職金から退職所得控除を控除した残額の1/2に税率を乗じて計算されることになっています。
今回の改正では、勤続年数が5年以下の「役員等」に対する退職金については、退職金から退職所得控除を控除した残額に税率を直接乗じて計算されることになりました。
つまり、残額を1/2しないということです。
対象となる「役員等」は以下の通りです。
・法人税法第2条第15号に規定する役員
・国会議員及び地方議会議員
・国家公務員及び地方公務員
公務員が含まれているのは、天下り後に「渡り」を繰り返す者に対する戒めのつもりなのでしょうか?
なお、この改正は平成25年1月1日以後に支払われる退職金より適用されます。

3.国外財産調書制度の創設
12月31日時点において国外に5千万円を超える財産を所有する人は、翌年3月15日までに、その財産の内容や金額を「国外財産調書」に記載して税務署長に提出する制度が創設されました。
この制度は平成25年12月31日時点の国外財産が5千万円を超える場合から適用が開始されます。
なお、この調書に記載がある場合とない場合では、その後の相続税等の申告において申告漏れがあったときの加算税に大きな差がつけられています。
詳細は別の機会とします。


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年金受給者の申告不要制度

今日は年に一度の還付申告センターの従事日です。
税理士の義務とはいえ、一日中立ちっぱなしというのは楽ではありません。

↓還付申告センターについての前回の記事はこちら↓
http://www.shinwa-ac.net/cgi/blog/archives/209.html

還付申告センターには、多くのお年寄りの方がお見えになります。
来られた方は長い時間待たされるだけでなく、会場によってはイスのない所もあり、見ていてとても気の毒になります。
数年前に私が担当した会場では、途中で倒れられた方もいました。
何とかしてもらいたいものですが。。。

ところで、平成23年分の確定申告より、公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下で、それ以外の所得金額が20万円以下(給与の場合は収入金額85万円以下)である場合には、所得税の確定申告をする必要がなくなりました。
なぜ今までこのような制度がなかったのか不思議ですが、これにより多くの人が楽になるのではないでしょうか?
ただし、医療費控除などにより還付を受けたい場合は確定申告をする必要がありますのでご注意ください。


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配偶者特別控除

所得税の所得控除に一つに「配偶者特別控除」があります。
具体的には配偶者の所得金額が38万円超76万円未満(給与収入103万円超141万円未満)の場合に、段階的に所得控除ができる制度です。
この制度は、配偶者の所得金額が38万円を超えると「配偶者控除」が全く受けられないことへの配慮から設けられています。

↓以前の記事↓
http://www.shinwa-ac.net/cgi/blog/archives/197.html

配偶者特別控除については、個人事業者の場合は確定申告により適用を受けます。
通常の場合、確定申告は2/16から3/15に行いますので、前年の配偶者の所得金額の把握は容易です。

これに対して、給与所得者の場合は、年末調整により適用を受けることになります。
年末調整は会社の業務ですので、会社は給与所得者の配偶者の所得を年内に把握することが必要となります。
そのため、給与所得者は11月下旬から12月初旬に、その年の配偶者の所得金額を見積もって、会社に報告することになっています。
その時に会社に提出する書類が「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」なのです。

はっきり言いますと、この制度には無理があります。
職業にもよりますが、11月下旬に配偶者のその年の所得を見積もることは難しいのではないでしょうか?
実際には間違いも多く、税務署から源泉所得税の追加納付などを求められることも多いように思います。

個人的には、税務署・会社の双方にとって、僅かな税金のために多くの時間をかけるのはどうなのかなと思います。

↓国税庁のサイト↓
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1195.htm


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