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私が開業した理由~決断のとき

監査法人に入所して3年後、私は公認会計士3次試験に合格し、ようやく公認会計士となることができました。
その頃には、上場会社の監査だけではなく、これから上場しようとする会社(俗に、上場準備会社)も担当するようになっていました。

上場準備会社の場合、規程や管理システムが未整備であることが多く、上場会社となるためには多くのハードルを乗り越えなければなりません。
当然のことですが、お客様側では初めての経験ですので、わからないことも頻繁に発生します。
そんなとき、現在のようにインターネットで調べるといったことはできませんでしたので、当時は、監査法人に質問して疑問を解決するのが一般的でした。
私が担当していた上場準備会社は岡山県の建設会社でしたが、私あての質問の電話が徐々に多くなり、とてもやりがいを感じるようになっていました。
「信頼されているのかな」と。

その一方で、上場会社等の法定監査も数多く担当しており、出張日数は年間100日を超えていました。
新幹線に乗りすぎて、慢性的に腰が痛かったことを憶えていますが、出張は嫌いではありませんでした。
日常生活から離れ、日本各地の美味しいものを食べ歩いたことは良い思い出です。

ところで、上場会社等の法定監査は、財務諸表(決算書)が正しいものかどうか、つまり、粉飾決算をしていないかをチェックする仕事です。
財務諸表が適正であることを前提として、投資家はその会社の株式売買ができますし、金融機関や取引先はその会社を信用するのです。
つまり、監査は「社会」の為の仕事であり、決して「会社」の為だけの仕事ではないのです。
そのため、監査する監査法人には、第三者としての「独立性」が求められているのです。

しかし、法定監査を担当するすべての監査法人は、監査される側である会社から監査報酬を得ています。
また、監査法人間での関与先獲得についての競争、会社との監査報酬の金額についての交渉なども当然に発生しています。
「会社から報酬をもらっているのに、独立した第三者と言えるのか?」
「会社と監査報酬の交渉を行っているのに、会社に厳しいことを言えるのか?」
「それで社会から信頼されるのか?」
若かった私は常にそんなことを考えていました。(今も考え方は変わりませんが。。。)
このような疑問を上司や先輩に質問したこともありましたが、まともな回答は皆無でした。
「監査制度とはそういうものだ。バカなこと言うな!」
「それじゃあどうやって監査法人は収入を得るんだ?」
「監査報酬は適切な手数料だから、独立性には関係ない。」
どうやら、当時はその話題は「タブー」だったようです。

私にとって、大きな転機となったのが、平成7年1月17日の阪神大震災です。
あの時、6千人を超える多くの方が、心の準備もなく、自分の意思に反して、お亡くなりになりました。
当時は、悔しさというより、虚しさを感じたように記憶しています。
「若いうちに思いきってやりたいことをやってみよう。」
会社から報酬をいただいて「社会」の為の仕事をするのではなく、会社から報酬をいただくのであれば「会社」の為だけの仕事をしたい。

そして、阪神大震災の翌年の平成8年に、私は26歳で独立開業したのです。
人生の計画や勝算もない本能の決断でした。

(Episode 8)


信和綜合会計事務所(大阪市中央区の税理士法人)
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